東京高等バレエ学校の新たな試み

プロバレエ舞踊家を育成するために東京高等バレエ学校は多くの新たなこころみを導入しています。

プロバレエ団のオーディションに合格するため、クラシックバレエのテクニックを正確に修得するためのワガノワメソッドに基づく訓練カリキュラム、生徒のターン・アウトを改善するための医学に基づく徹底した指導、バレエの訓練への教育学の導入、バレエ障害治療のための整形外科診察室の完備、さらに、全床面スプリング衝撃吸収バレエスタジオの整備など日本のバレエ界初のこころみを導入しました。

これらのこころみが、開校10周年を迎えた2017年4月には25名(延べ人数)の卒業生が国内外のプロバレエ団のオーディションに合格する教育実績を可能としたのです。

 

1. ワガノワバレエメソッドの特化

日本バレエ界の要望により、日本にバレエを伝えたロシアのバレエを正確に学ぶことができるバレエ学校として生徒の教育をしています。

ワガノワバレエアカデミーより招聘したロシア人バレエ教師が本学バレエマスターとなり、バレエ実技授業の責任指導を行っています。
クラスレッスンとバリエーションの指導はロシアのバレエ教師養成課程を修了した国家バレエ教師資格所持者が指導します。「バレエを踊ることと教えることは全く異なる技能である」との欧米のバレエ界の観点に従い、プロのバレエ教師のみが生徒を指導する体制を整えています。たとえ、有名バレエ団でプリンシパルとしての経験を持った舞踊家であっても、バレエ指導法の専門教育を受けていない者が、本学で学生を教えることはできません。このようなプロバレエ教師による指導により、ロシアのサンクトペテルブルグの伝統あるマリンスキーバレエの品格とエレガントさを生徒は学び、海外のバレエ界に通用するプロバレエダンサーとして卒業と同時に活躍することが可能なのです。
現在、19名の生徒を、21名の常勤教師が指導しています。

2.バレエダンサー育成への教育学の導入

東京高等バレエ学校は、日本のバレエ学校として初めて高等学校卒業資格を取得することを可能としました。
高等学校カリキュラムは「ゆとり教育」から、「詰め込み教育」へ転換しました。そのため、欧米の国立バレエ学校のように毎日2クラス以上のバレエの専門訓練を施すことが事実上不可能なのです。そのため既成の高等学校のバレエコースは週3コマのバレエ実技授業が限界となっています。

このような状況を理解し、本学は通信制高等学校の教育にバレエ専門教育を組み込み、欧米の国立バレエ学校のカリキュラムを超すバレエ実技の訓練の実施を可能にしました。この高等学校教育とバレエ教育の融合を可能にしたのが、大学の教育学教授による生徒の授業チェックです。常に、生徒のバレエ実技の向上と学校授業の進み具合を監視し、バレエ学校の通常授業に数学をはじめとする高等学校授業の教師が常勤し、生徒の勉強を指導しています。

今日、多くのバレエ学校が通信制高校と提携しました。教育学の観点から、通信制の問題点は学校間の教育の質の格差です。
バレエを学ぶ生徒がすべてプロになるほど道は容易くありません。バレエを離れ、大学進学、あるいは就職していく生徒もいます。この生徒たちが進学、就職に際し、通信制高等学校の教育の質によって、進学、就職も困難となるケースが多いのです。

本学は東海大学付属望星高等学校の全面的な協力を受け、生徒の高等学校課程の普通教育を学んでいます。東海大学付属高等学校の教育の質の高さによって、本学生徒は桐朋学園音楽大学などの一流大学へ進学しています。

バレエ教育の観点からは、本学は3学期制を実施し、各学期末にバレエの実技試験を課しています。ワガノワバレエアカデミーのカリキュラムに沿った実技試験により、生徒の技能の進歩を厳しく管理し、成績を出し、保護者に報告しています。
この結果、従来のお稽古事、ホビーの延長としてのバレエの訓練から、プロをめざした教育が実現しています。

3.コンテンポラリーダンス、バレエ動作解剖学など特色あるカリキュラム

欧米のバレエ団の演目は、その半数がコンテンポラリーダンス作品となりました。このためバレエの訓練だけではプロバレエ団に入団することは困難な時代となりました。

本学は、英国ロイヤルバレエスクール、パリオペラ座バレエスクール、スクールオブアメリカンバレエと同様にグラハムテクニックの修得を必修としています。毎週、グラハムテクニック、フラメンコ、さらにモダンダンス、ジャズダンス、などのさまざまな種類のダンステクニックを特別授業科目として学びます。
この結果、3年間のコンテンポラリーダンスの必修により、生徒は卒業時には欧米の一流バレエスクール生徒とそん色なくバレエ団オーデションで競う実力を習得します。

解剖学はプロを目指す生徒には必修の授業です。特に、より高度なバレエテクニックを理解し、習得するには従来の筋肉、骨格の名称を学ぶだけの解剖学では役に立たなくなっています。
大切なことはバレエテクニックと直結した解剖学の知識とバレエダンサーとしての身体を作るための筋肉生理学、動作学など大学舞踊学部で学ぶ講義です。本学は高等学校として初めて大学舞踊学部舞踊学専攻生が学ぶバレエ動作解剖学、舞踊筋肉生理学、ダンス心理学を必修授業として3年間学びます。この知識が生徒のダンステクニックのより深い理解を可能にしています。

4.バレエ専用スタジオと整形外科診療室の完備

バレエの訓練のためにバレエ専用スタジオを備えています。
特に、清水建設の最新技術を得て、世界初の衝撃吸収スプリングを床裏全面に設置したバレエスタジオを建設しました。この衝撃吸収バレエ専用スタジオの設置により、生徒の怪我を未然に防ぐことを可能としました。

さらに、世界でも初めて整形外科診療室を学内に設置し、生徒の急性の怪我、あるいは疲労から発症するバレエ特有の障害を治療することを可能としました。
15歳から19歳までの高校生の成長期の身体は、筋肉、骨の強度が日に日に大きく変化します。このためバレエ学校生徒は常に怪我をする危険と向かい合っているのです。怪我を未然に防ぎ、さらに、痛みが出た場合は早期の初期治療の実施を可能としました。この整形外科診療室では、理学療法士、バレエ障害の治療経験の豊かな整形外科医の治療を受けることができるようにしました。

5. 就職・進路指導の徹底

日本のバレエ界の最大の問題は、バレエ団員の給与が保障されていないことです。そのため、本学は欧米のプロバレエ団入団を目標とした教育を本学は欧米のプロバレエ団入団を目標とした教育を開校と同時に実施しました。生徒たちが給与を得られるバレエ界で活躍してもらえることが最も大切なことと考えたのです。このため、すべての生徒の卒業後の進路を公開しています。

その一環として、在学中のコンクール成績も公開しています。本学生徒の進路、コンクール成績は本学教職員、役員の本学教育に対する誇りを示すものです。
本学生徒のほとんどは欧米の一流バレエスクールへ進学、さらに、諸外国の国立歌劇場バレエ団に入団し、活躍しています。
このようにして生徒たちは保護者から経済的な独立を果たし、プロの舞踊家として舞台に立っています。生徒の就職・進路指導の徹底こそが、バレエ教育にとって最も大切なことであり、日本のバレエ学校に求められてきたことなのです。

東京高等バレエ学校
代表世話人 里見悦郎